はじめに
以前の記事では、熱交換器の伝熱計算や、非定常熱伝導の解析方法を取り上げました。
今回は、高温のガスに直接水を吹き付けて蒸発させることでガスを冷却する方式について取り上げます。
この記事を読むことで、噴霧冷却によるガス温度変化の計算方法が理解でき、さらに機械設計上注意すべき点についても理解することができます。
噴霧冷却の考え方
噴霧冷却は、噴射した水の蒸発潜熱と顕熱を使ってガスのエンタルピーを取り去る技術です。
ただし、水の比熱は約4.18kJ/(kg・K)であるのに対して、100℃における蒸発潜熱は約2257kJ/kgなので、潜熱の比率が非常に大きくなります。
(1kgの水を20℃から100℃まで加熱するためには334.4kJ必要だが、蒸発させるにはその7倍近いエネルギーが必要)
いま、図のような噴霧冷却器を考えます。簡単のために装置内の圧力は大気圧とし、ドレンは発生しないものとします。また、ガスの熱はすべて水と熱交換するものとします。(壁面熱損失は無視)

まず空気と水の質量流量を求めます。密度と体積流量から質量流量は下記のように計算できます。
\(\dot{m}_1=ρ_1\dfrac{Q_1}{1000} \rm{[kg/min]}\)
\(\dot{m}_w=ρ_w\dfrac{Q_w}{1000} \rm{[kg/min]}\)
噴霧冷却では、①入口の空気の温度がT1[K]からT2[K]に下がったことによる熱量差と、
②水が373K(100℃)まで加熱されて、それが蒸発し、さらに蒸気がT2[K]まで加熱される熱量が等しくなります。
式で表すと、
\(\dot{m}_1Cp_1(T_1-T_2)=\dot{m}_wCp_w(373-T_w)+\dot{m}_wh_{fg}+\dot{m}_wCp_g(T_2-373)\)
となります。これを解くことで、T2を求めることができます。
※平均比熱の取り扱いについて気になった方は、ブログの巻末に補足をまとめていますので、ご確認ください。
計算例
先ほどの式を使って、実際に計算してみた例が下記です。当たり前ですが、水の量を増やすことで、ガス温度は単調減少します。

実用設計上気を付けること
これまでは理想的な条件で計算を進めてきましたが、実際は下記の点に注意する必要があります。
全ての水が蒸発するわけではない
理想的な計算では、噴霧した水がすべて蒸発することを仮定しましたが、実際は噴霧の細かさやスプレーノズルのタイプ、ガス流速等の影響を受けて、蒸発せずにドレンとして排出されてしまうケースがあります。この場合、蒸発潜熱を有効に使えないので、冷却効率は悪くなります。
よくあるのが、経年劣化でスプレーノズルのチップ径が大きくなり、噴霧特性が悪化してドレン量が増えているケースです。特に燃焼中のガスに直接噴霧する場合は、高温ガスの接触や輻射熱による焼損、後述するドレンの腐食性による腐食破損が発生する可能性があります。
ガスの種類によってはドレンが腐食性を持つ場合がある
先ほどの計算では空気への噴霧を対象としましたが、燃焼ガスへの噴霧の場合、ドレンに塩素分や硫黄分が含まれることがあります。これらを含んだドレンは強酸性を示し、たとえステンレスであっても容易に腐食するので注意が必要です。
レイアウトによってはガス温度が不均一になる
装置出口で均一な出口温度としたい場合は、十分なガスの滞留時間と混合が大切です。滞留時間は装置の体積[m3]をガスの体積流量[m3/s]で割ることで計算できるので、ガスの量が多い場合ほど、体積を大きくとる必要があります。
また、混合を促進するためには、水噴霧の貫通力、スプレーノズルの向きやパターン、空気側の乱流強度などが重要になります。
これらが欠けていると、ガスが出口で温度分布を持つようになり、下流の装置の耐熱温度を上回る恐れがあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
噴霧冷却方式は、装置の構成がシンプルとなるため広く用いられている機器です。
一方で、上手に使わないとユーティリティや排水処理設備に影響を及ぼすことになるため、奥深い機器でもあります。
今回の記事を通じて、伝熱計算の理解が進む一助になれば幸せです。
補足(平均比熱の話)
今回の計算では、簡単のために比熱を定数として扱いました。実用上はこれで十分であることが多いですが、参考のために厳密な方法も解説しておきます。
今回用いた定圧比熱は、理想気体のマイヤーの式であらわされるように、温度の関数です。
\(C_p= \left (\dfrac{\partial H}{\partial T} \right)_p \)
各種ガスにおいて、温度の多項式として近似式が求められています。例えば、低圧蒸気の場合は、
\(C_p=1.86+0.0006t\)
となります。そして、今回のように373K~T2[K]までの蒸気分エンタルピーを求める際は、373K~T2[K]間の平均比熱を求める必要があります。平均比熱は下記の式であらわせます。
\(\tilde{C_p}= \dfrac{1}{T_2-373}\int_{373}^{T_2}C_pdT\)
このように、平均比熱の計算をするためにT2が必要となるので、もし正確にエネルギー式を解く場合は、繰り返し計算が必要となります。
(T2を仮定して式を計算→出てきたT2で再度計算・・・を続けて差が小さくなるまで繰り返し。)


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